開発裏話

2次医療圏データベースの開発の経緯をご紹介します。


当データベースの共同開発者である国際医療福祉大学大学院 高橋 泰教授にお聞きしました。

2011年1月11日の2次医療圏データベース(巧見くん)ver.1の公開開始から11年、2次医療圏データベースシステムのダウンロード数がシリーズ累計で78万件を超えました(2022年5月時点)。
公開開始直後はなかなか認知いただけませんでしたが、日本の医療の将来を計画・予想するにあたって2次医療圏単位でのデータに基づいた議論が不可欠であるとの認識が徐々に浸透していくことで、行政・研究機関をはじめ、民間企業、医療従事者、その他日本の医療の将来に関心のある多くの方々に広くご活用いただくようになりました。

メッセージ

Message

国際医療福祉大学 医療福祉学部長 高橋 泰
国際医療福祉大学
医療福祉学部長 高橋 泰

2011年1月のリリース以来、巧見さんは6度のバージョンアップを重ね、巧見くんファミリーである小児産科版の「たっくん」、薬局版の「クスリちゃん」などを含めたシリーズ全体のダウンロード数がついに78万件を超えました。

この間、2010年に考えたように、2025年頃の日本の状況により適合することを目指した地域医療構想が本当に動き始め、日本の医療提供体制は2025年の人口構成に対応をして、大きく舵を切りつつあります。

皆さんが巧見くんファミリーを使い、多くの人が日本の医療の将来を考えてくれたことが、今日の地域医療構想につながったように思います。これからも巧見くんファミリーは、ウェルネスさんと協力しながらバージョンアップを継続しますので、今後ますます皆さんも活用され、日本の医療提供体制がより良い方向に進んでいくことを強く期待します。

2次医療圏データベースを
開発しようと思った理由

2010年から 25年にかけて後期高齢者が1.5倍に膨れ上がります。しかしその増え方は、同一都道府県の中でも地域により大きく異なります。1つの都道府県をいくつかの地域に分け、県レベルより詳細な分析を行う必要性が、確実に高まっています。

ここで、“もし”、日本各地の役所や病院の企画室で将来計画を作成するキーパーソンが、2025年の日本の、あるいは各地域(医療圏)の大変厳しい今後の人口の推移を実感するようになれば、そのキーパーソンの多くは、周囲に2025年の地域の状況を語り始めるでしょう。キーパーソンおよびその周辺の人たちが、自分達の所属する医療圏の現在の相対的な立ち位置や将来の人口推移を熟知するようになれば、彼ら彼女らにより作成される各都道府県の医療計画や各医療機関の将来計画は、2025年頃の日本の状況により適合したものになるでしょう。

しかし、これまで日本の医療提供体制の地域差を調べようとしても県レベルのデータがやっとであり、それより詳細な2次医療圏の状況を示すデータの入手は、容易ではありませんでした。

日本の医療の将来を計画する政府、地方自治体、病院、教育機関、シンクタンクなどのキーパーソン達が、手軽に2次医療圏レベルの人口推移や医療提供状況を把握できる情報を入手し、自由に統計解析やシミュレーションを行える環境を提供できれば、彼ら彼女らがこれらのデータを活用してより良い将来プランを作成するようになるだろうと考えたことが、2次医療圏データベースを作ろうと思った理由です。

2次医療圏データベース開発の経緯

2次医療圏データベースの開発にいたるには、2つの契機がありました。

まず第1の契機は、東京青年医会(東京都の若手病院経営者の勉強会:代表 竹川 勝治)が 2010年3月21日と22日に開催した研修会のコーディネーターを、私が務めたことです。この研修会の目的が、「社会保障国民会議 最終報告における医療提供体制シミュレーションを東京都の病院の中で機能別に議論、分析し、東京青年医会より東京都の医療機関からの提言を策定する」というものであり、私が東京の全病院リストと東京都の全市町村の病床数や施設のベッド数の統計資料を作成しました。

この経験を通し、私は次の確信にいたりました。
(1) 今後の医療提供体制を考える上で全国の地域別の基礎データは重要・不可欠
(2) 全国の医療機関の名称、住所、病種ごと病床数が入手できれば基本データ作成は可能
(3) 必要な情報はほぼ公開情報だがデータは散在しフォーマットもバラバラ

第2の契機は、2010年4月に「病院情報局」というインターネット上のサイトに出会ったことです。病院情報局は、株式会社ケアレビュー(加藤良平社長)により運営されている、厚生労働省や公的機関に報告された客観性の高い情報を使用して、全国の急性期病院の患者数・平均在院日数などの診療実績や、医師数・看護師数・病床数などの基本情報を比較できる医療情報サイトです。主な情報源として利用している「DPC導入の影響評価に関する調査結果及び評価」のデータを、利用者の視点で目的別に整理し、その結果を主に横棒グラフで表示することにより、地域内での病院比較などが一目でわかるように整理されています。

私は、このサイトを見て、Webアプリケーションによって公表された情報をわかりやすい情報に整理することが安価に実現できること、一民間企業でも、小さな投資でも、医療界に大きな影響を与える情報提供サイトを運営することが十分可能であることを知り、大いに驚き、それが医療提供体制の見える化に寄与できるサイトを作りたいという強い意欲につながり、2次医療圏データベースの開発の契機の一つになりました。

ウェルネスとの出会いと実現

東京青年医会の研修会と病院情報局に刺激を受けた私は、2010年4月から6月にかけて役所やいくつかの会社を訪問したものの、なかなか良いパートナーが見つかりませんでした。しかし、2010年6月21日に、本2次医療圏データベースシステムの共同開発者であるウェルネスを訪ねたことより、開発が本格的に動き始めました。

ウェルネスは、私の昔からの知人である平川淳一先生が1991年に創業した医療情報提供会社で、健康相談から始まった事業も、全国をカバーする病院や診療所の情報をもとに企業へ医療情報の提供を行っていました。私が平川先生に「今後の日本の医療提供体制をデザインするには、2次医療圏ごとに病院情報をまとめたデータベースを開発することが不可欠である。先生のところの情報を提供いただけないだろうか」と相談したところ、「世の役に立つことであるので、協力しましょう」と、即答いただけました。

その後、私と石川雅俊氏(国際医療福祉大学院博士課程)とウェルネスの2次医療圏データベースシステム開発チームメンバーとの間で週1回のペースでミーティングを重ね、2010年9月までにコンセプトが固まり、同年10月より制作に取り掛かりました。ウェルネスから提供された全国の病院情報を整理し、更に不足データを補うなどの情報整備を私と石川氏が担当し、さらにウェルネスが新規のプログラムの開発を含めたシステムの作成を行いました。関係者は全ての資源を無償で持ち寄りました。

2次医療圏データベースを作りたいと考え始めてから10ヶ月、ウェルネスと出会ってから約半年、実際のシステムの制作を開始してから約3ヶ月、「将来に向けた日本の医療提供体制をより良いものにしたいとい」う開発チームの熱意により、極めて短期間で構想を実現することができました。

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